日本には、さまざまな農法がある。その中で、なぜ? 有機農業を目指すのか? なぜ? 有機農業を目指すなら、BLOF(ブロフ)=Bio LOgical Farming(バイオロジカルファーミング):生態系調和型農業理論が最適なのでしょうか?
「野菜を食べる理由」それはなんだでしょうか?一言でいえば、「美と健康のため」ではないでしょうか?身心の健康を保つために、毎日、野菜を食べている。女性にとっては、野菜をとならいことは肌荒れなどの原因となるため、野菜と美と健康は、切実にイコールなのではないでしょうか。
「トマトが赤くなると、医者が青くなる」は、もともとは「柿が赤くなると、医者が青くなる」というのが大元らしい。意味としては夏には体調を崩す人も多いが、食欲の秋になると、気候も過ごしやすくなり、実りの秋の栄養豊かな食に支えられて、病気になる人が減るから、医者が儲からないという意味らしい。ヨーロッパには「1日1個のリンゴは医者を遠ざける」という諺があり、これが混じって柿がトマトになったのだろうという。しかし、実際にトマトに含まれる赤色成分のリコピンには、病気を予防する効果がある。動物実験のレベルではあるが、ガンや動脈硬化や心臓病を予防する力があることが証明されてきている。
近年の医学の進歩によって、医食同源はまさに、そのままの意味であることが明らかになってきている。農家として、わたしたちが生産している野菜は、それを食べる人の健康に直結している。この事実から目をそむけてはいけないだろう。そしてもっと真摯にこの課題に取り組むべきではないだろうか。
野菜には、私たちの体の健康を保つための栄養と、体の美しさを保つための栄養がたくさん含まれている。①ビタミン類やポリフェノールやカロチノイドなどの抗酸化物質は、細胞の老化を防止する効果がある。動き回ることができない植物は、太陽の日差しが強烈でも日陰に逃げ込むことができない。そこで太陽からの紫外線によって自分の細胞が傷つかないように、さまざまな抗酸化物質を体内につくっている。②私たちが健康な生活をおくるために欠かせないミネラルも野菜から摂取しているものは多い。③野菜からとれる食物センイが腸内細菌を活性化し、血液やリンパの流れをよくし、免疫力を高めるということもわかってきている。
野菜からとれる栄養についての研究は進んでいるが、栄養価コンテストでお世話になっているデリカフーズさんでは、野菜の力として①老化防止の抗酸化力、②体内の必要ない物質の排出を助けるデットクス力、③酵素の働きを助けたり、活性化し新陳代謝を促進する酵素力、④免疫を高める免疫力。の4つ野菜のチカラに注目し研究をされている。
わたしたちは現在ほど、野菜の栄養について、くわしく調べられていなかった時代から、野菜の栄養に注目して、積極的に、おいしくいただいてきた。ところが今、野菜に異変が起きている。それは野菜を食べる理由ともいえる野菜の栄養価が昔よりも、ずいぶん減ってしまっているという問題である。
1960年頃の野菜の栄養価と、現在2010年頃の栄養価を比べてみると、現在の野菜は昔の野菜に比べたらビタミンやミネラルなどの栄養価が半分くらいになってしまっている。
原因について、さまざまなことが言われている。①測定の仕方が、今と昔とでは違うとか。②旬がなくなり、旬でないとき、つまりその作物にとって適期でない時期に栽培されているから栄養価が上らないとか。③品種改良によって、現在の品種は、病気に強いが、栄養価は低いとか。さまざまな原因が考えられている。
しかし、栄養価が低くなった理由として、一番大きな理由は、④化学肥料の普及で、堆肥を使わなくなったこと。または、堆肥の質が悪くなったことにあるのではないかと考えている。
画像引用(上)はイギリスの中央部の田風景(
キースリー&ワース・ヴァレー鉄道HPより)
画像引用(下)はウキペディアHPより「稲作(インドの田植え風景)」
「有機栽培」という言葉をつくった人は、イギリス人のアルバート・ハワードである。ハワードは赴任先のインドと故郷のイギリスの畑の土を比較して、驚愕した。イギリスの土壌はなぜこんなにも痩せているのか? それに比べてインドの土壌はなぜこれほどに豊かに肥えているのか? ということに、たいへん驚き、疑問を感じ、その理由を知るべく研究し、豊かさの源は堆肥であることを突き止めた。堆肥を使うことで、土壌を豊かにすることができることを発見し、堆肥を使う農業=オーガニック・ファーミング(有機物を用いた農業)と命名しヨーロッパ・アメリカに紹介した。ここに有機農業が誕生する。1940年のことである。
堆肥を使わないと、土壌は固くなり、水はけや水持ちが悪くなり、根の張りも悪くなり、病害虫にも会いやすくなる。微量要素の欠乏も起こしやすい。結果、収量と品質が下がっていくことになる。
オーガニック・ファーミングは「有機農業」という日本語に翻訳され、1971年に一楽輝雄先生によって「日本有機農業研究会」が発足することとなる。
堆肥を使わなくても、無農薬・無化学肥料栽培をもって有機農業という方もおられたりして、有機農業の現場は、現在、やや混乱しているが、原点に返るなら堆肥を使う農業=それが有機農業なのである。そして、その最大の目的は、持続可能な土壌管理と農業生産なのである。
ハワードが有機農業を紹介するために、1940年に出版した本のタイトルは『アグリカルチャー・バイブル』であった。日本で翻訳出版された本のタイトルも『農業聖典』となっている。キリスト教の国の人がバイブル(聖書)という言葉を使うのにはかなり勇気がいることだという。「堆肥を使うことで農業を持続的に行い続けることができる」ということを発見したハワードにとって、その発見は神の啓示に思えたのかもしれない。ハワードは1946年、「健康な土壌が健康な植物を育み、それが健康な体を生んでいく」という基本理念の基、世界で最初のオーガニク認証協会である「英国土壌協会」を設立する。現在、イギリスのオーガニック製品の8割がハワードが設立した英国土壌協会による認証のものとなっている。
堆肥を積極的に使う有機栽培でつくると、野菜の栄養価は昔のように高いものになるはず。しかし、ただ単純に堆肥を使えばよいというものでもないらしい。
有機農産物だからといって、ただ、それだけでは、すべての有機農産物が、「人々の求める野菜=人の美と健康を支える力をもっている野菜」とはいえない。有機農産物と化学肥料を普通に使って育てられた慣行栽培の農産物の栄養価や健康効果を調べる研究は、世界各国で行われているが、あまり有機農産物は優れているという結果は得られていない。
有名なところでは2009年7月のイギリスの食品基準庁の報告がある。イギリスの食品基準庁は、「一般に、有機食品のほうが慣行の農畜産物よりも栄養的に優れていて、健康に良いといわれている」ので、有機農産物の栄養価や健康効果について科学的な裏付けを得ようと考え、ロンドン大学衛生熱帯医学大学院の栄養公衆衛生研究チームに研究を委託したが、その結果は「有機農産物と慣行栽培の農産物で、栄養価や健康効果に大きな差はない」というもであった。詳細については
「西尾道徳の環境保全型農業レポート」のHPにある。
しかし、「有機農産物の栄養価はたいしたことがない」という、多くの研究結果は、地に足のついてない机上の空論ではないだろうか?なぜなら、わたしたち農業者は、ほんとうに「おいしい野菜」のことを知っている。
そして、人の美と健康を支えることができる野菜作りに挑戦できるなら、やってやろうじゃないかという、ちょっとした気概に満ちている。
そこで一般社団法人日本有機農業普及協会(JOFA)が中心となり、農業者に呼びかけて、誰の野菜が一番、栄養価が高いのかを競い合う「栄養価コンテスト」を、2014年から本格的に行ている。
栄養価コンテストの目的のひとつは、栄養価の高い野菜の作り方とはどのような栽培方法なのか?それを明らかにすること。たくさんのデータを集めれば、集めるほど、作り方の正解の的は小さくなる。どのようなプロセスを経ることで「栄養価の高い野菜」をつくることができるのか?それが次第に見えてくる。
栄養価コンテストを行うことで、自分の野菜の栄養価のレベルを知ることができる。そして、栄養価の高い野菜をつくる生産農家が誰なのかがわかる。
栄養価の高い野菜をつくりたいと思っても、それを自分ひとりで悩みながら、研究研鑽を積んでいくというやり方では、ともうもなく時間がかかってしまう。ひとりで悩むより、できる農家さん、もっている農家さんに、栄養価の高い野菜の作り方を直接的に教えてもらう方が、上達も早く、達成も早い。また、栄養価の高い野菜をつくる生産農家が集まって、技術について話し合うことで技術の発展するスピードはかなり速くなるだろう。
実際に、回数を重ねることで、栄養価の高い野菜の栽培技術、土づくり技術、堆肥製造技術というもののレベルが上がってきている。
栄養価コンテストは、「人の美と健康を支えることができる野菜をつくる技術」を確立するための扉。参加するか、参加しないかはあなた次第。
日本有機農業普及協会(JOFA)がおすすめしている農産物の栽培理論はBLOF(ブロフ)=Bio Logical Farming (バイオロジカルファーミング)生態系調和型農業理論は、このストライクゾーンの研究によって、栄養価が高い高品質野菜を、安定的に、多収穫する栽培技術である。
栄養価コンテストの結果から見えてきたこと。
硝酸イオンが多くなると、糖度、ビタミンC、抗酸化力は低下する。
栄養価コンテストの結果から見えてきたこと。
逆に硝酸イオンが減れば糖度、ビタミンC、抗酸化力が向上する。
日本有機農業普及協会のBLOFでは、栄養価コンテストの結果を踏まえて、①植物の生命力自体を高めて栄養価を向上させる作物栽培技術と、②土壌中の硝酸イオンを少なく抑えて、作物の栄養価低下を防止する土壌管理技術の2つの技術体系がある。
BLOFを栽培技術を1枚にまとめると、上の図のようになる。有機栽培に使用する肥料を3つのカテゴリーに分類し、それぞれの①肥料の役割、②肥料を使いこなすための技術、③目指すべき目標を定めている。
(1)ミネラル肥料施肥分類:
ミネラル肥料は植物の基礎体力を向上させ、本来もっている生命力を向上させる。特に光合成能力を向上させなければ、野菜の栄養価は高まらない。ミネラル施肥は高品質・多収穫・安定生産の要となる重要な肥料である。
技術としては、土壌のミネラル栄養成分の現状値を調べる土壌分析技術
土壌分析の結果より、具体的に施肥する量を決める施肥設計技術となる。
(2)アミノ酸肥料施肥分類:
有機栽培では堆肥とは別に発酵肥料を使う。堆肥だけでは初期生育に必要な窒素の供給が足りないためである。この発酵肥料の成分が、アミノ酸であることに注目し、アミノ酸になっている良質な発酵肥料を積極的に施用し、細胞作りを促進し多収穫をめざす。
技術としては、液肥発酵技術となる。
(3)堆肥施肥分類:
堆肥は土壌を団粒化し、物理性を改善し、土中の有害微生物を抑制し生物性を改善し、微量ミネラルを供給し化学性も改善してくれる。
技術としては、土壌団粒化を促進させ根の量を増やす太陽熱養生処理
堆肥の品質が土の良し悪しを大きく左右することから、堆肥づくり技術・堆肥の見分け方技術が必要となる。
すこしだけ、具体的な内容に触れておきたい。上の図は、炭と水の化合物である炭水化物の化学式である。植物は上から2つ目のブドウ糖を光合成によって炭酸ガスと水と太陽エネルギーを原料に生産している。ブドウ糖は、糖度に関わる重要なおいしさ成分であり、植物が栄養成分であるビタミン類をつくるための原料になるもの、また、植物には骨がなく、体を頑丈なセルロースでできたセンイの壁で支えているが、セルロースもブドウ糖を2000から4000分子という膨大な量を結合させてつくられている。
栄養もおいしさも炭水化物。ならば炭水化物の大元であるブドウ糖をつくる光合成能力を向上させることができるなら、おいしさも栄養価も向上するに違いないということになる。
光合成を行う葉緑体のなかの、光合成を担う酵素タンパク質をみてみると、光を受け止めるソーラーパネルに苦土(マグネシウム)があり、光を電気に変えて、水を電気分解している電極にはマンガンや塩素がありと、さまざまなミネラルが使われていて、このミネラルが足りなくなうと、光合成能力が低下することがわかっている。
1992年にブラジルのリオで行われた「地球サミット」。このには全世界の国とNGOが集まって、宇宙船地球号の操縦の仕方、そしてわたしたちの未来が話し合われた。この会議に資料として添えられた地球の現状を示すデータのひとつ。過去100年間における土壌ミネラルの減少率。アジアでも76%減と大きくミネラルが失われているのがわかる。
原因は簡単で、持ち出すばかりで、返さないからである。野菜も穀類も農産物は、土壌のミネラルを吸収する。
上の図は冨士平工業製の簡易土壌栄養成分検定器ドクターソイルによる土壌分析のようす。
上の図は、エクセルに必要な計算式を入れてつくられた施肥設計シート。
ミネラル肥料をしっかり施用しても、その肥料のところまで根が届かないといけない。そこで、まだカロリーが多い状態の中熟堆肥を活用した太陽熱養生処理を行っている。
中熟堆肥のもっている多糖体をエサとして、酵母菌などの炭酸ガスを出す菌を入れると多糖体が炭酸ガスになる膨張圧で、土壌が粉々になり、まさにパンを焼くように土がふっくらとする。発生するガスと水分を逃がさないように、透明シートで覆うのがよい。
単粒構造の土壌と団粒構造の土壌の模式図。三枝敏郎著『センチュウ生態とかしこい防ぎ方』農文協2005年10刷の14~18頁より転写。土と土をくっつけているのは堆肥由来の糊状炭水化物。そこにはバチスル菌や酵母菌などが棲んでいる。間隙の空気の多いところには、好気性の放線菌や糸状菌。センチュウなどが棲んでいる。団粒構造を支えている糊状炭水化物は、微生物のエサとなり、微生物が分解することによって発生する炭酸ガスによって膨張をすることで、フカフカの土は長持ちする。
春先のイチゴの成りつかれを解消する多糖体液肥。堆肥に酵母菌を入れて再発酵させたもの。12月より収穫し始めるイチゴは、2月、3月と暖かくなるにつれて、それまでに施用した追肥の窒素が温度上昇と共に効き始め、生育が乱れることがある。上の写真の多糖体液肥は、炭水化物を積極的に施肥するもので、春に向って、温度上昇することによるあふれる窒素を炭素で打ち消し、生育を安定させるというもの。
タンパク質を発酵させることによって得られるアミノ酸を肥料としたアミノ酸肥料は、化学肥料とは異なり、根で吸収されたら、一度、葉に運ぶことなく、直に根の細胞になることができる。日本では、「植物はアミノ酸態の窒素を直接吸収できない」と長らく言われてきたが、農業の実際の栽培の現場では、アミノ酸態窒素の肥料は使用され、効果を上げている。近年、アミノ酸態窒素の吸収実態の研究も進められている。
アミノ酸態で窒素を植物に供給することで、光合成によって生産された炭水化物を細胞作りに使用する量が減り、余った炭水化物を、①余った炭水化物でセンイの外壁を強化し病害虫に強くなったり、②余った炭水化物によって根酸を増やしミネラルの吸収を増やしたり、③余った炭水化物で糖度を上げたり、④余った炭水化物で貯蔵デンプンの量を増やして重くしたり、⑤余った炭水化物で栄養価を高めることができる。
上の図は、植物は、光合成によって大気中の炭酸ガスと土中の水窒素とミネラルといった無機物からブドウ糖やアミノ酸などの有機物を生成している。動物は植物を食べ、植物は動物の体になり、植物も動物も死ぬと分解者によって分解され、もとの土や大気(無機物)に帰っていく。有機栽培は、植物が再利用しやすいように、発酵技術によって、タンパク質をアミノ酸にし、セルロースを多糖体にして供給している。有機栽培は自然の循環のメカニズムに発酵を使ってバイパス(近道)をつくったということができる。
有機栽培は、実はアミノ酸態窒素を使う細胞づくり促進技術であり、堆肥を使い土壌を団粒化することにより根の量を増やす植物の体力増進技術である。有機栽培こそ多収穫・高品質・安定生産を可能にする栽培技術であるといえる。
ところが、有機栽培には大きな弱点がある。それは品質の良いものができることによって、土壌からより多くのミネラルをくみ上げてしまうことである。アミノ酸肥料を使うことで、細胞づくりが促進され、光合成によって生成された炭水化物が余る。余った炭水化物によって、根酸が増え、土中のミネラルは、より多く吸収され、畑から持ち出される。
有機栽培においては、まず何より植物の生理や自然生態系のメカニズムを学び、自然の法則を知ることがとても重要なことになる。自然は人間の都合によって、その法則性を曲げてはくれない、しかし、このことはとても重要で、自然生態系の法則と農業をうまく調和させたならば、自然生態系は、確実性の高い豊かな実りを約束してくれる。