●有機稲作徳島成苗の会:瀧口敏夫さん・小山恒夫さん
1.会の概要説明
「未来を担う子どもたちに安全で安心な環境と食べものを残すために」が会の理念。
2011年(平成23年)2月に設立・現在栽培会員数22名・栽培面積26ha。
2.栽培技術に特徴があるグループ
ポット方式の苗をつくている。直径15ミリ×深さ25ミリ。1ポットあたり3粒くらい播種する。葉の枚数が4枚~5枚になったところで田植えをする。育苗日数40日くらい。苗丈は18㎝くらい。大きな苗で田植えをすることで、ジャンボタニシの食害も少ない。田植えをする前の代かきに工夫がある。代かきを丁寧に行うことで表層にトロトロ層をつくり草が生えにくい状態にする。そして田植えと同時に米ぬかを表層に散布することで草を退治する。みのる産業の田植え機は機械の前に田植えをし、そして田植え機の後ろに米ぬかを散布できるようになっている。米ぬかを散布するとユスリカが増える。ユスリカの成虫を食べにツバメがやってくる。田んぼの中にはミジンコがたくさんわき、豊年エビなども発生する。
3.成果は生きものが教えてくれる。
2013年5月13日・小松島市坂野町の田んぼで、コオイムシが見つかる。
2013年9月5日・小松島市坂野町の田んぼに、コウノトリがやって来た。
6月になると赤トンボがヤゴから羽化するのが見える。
2015年5月・鳴門市大麻の黒田さんの田んぼにやって来たコウノトリの写真。
2015年10月・阿南市那賀川町手島の瀧口さんの田んぼにナベヅルがやって来た写真。
冬水田んぼの取り組みは、グループ全体で403aを実施。
4.私たちのグループのつくるお米は食味がよい。
米・食味鑑定コンクルール・国際大会の都道府県代表・特別優秀賞を受賞している。
2012年は椋下さん・2013年はライバルの小松島市生物多様性農業推進協議会の北野さん・2014年は小山さん・2015年は瀧口さんが受賞。
2015年には中国四国地域環境保全型農業推進コンクール奨励賞受賞
2016年には多面的機能発揮促進事業中国四国農政局長優秀賞受賞
まじめに取り組んできた結果と考えています。
これからも有機栽培のお米作りを通じて自然環境循環型農業を続けていきます。
●タイトル:生産者と消費者の交流事業・有機稲作と地域活性化について
●小松島市生物多様性農業推進協議会として活動をしている上王子特質米生産組合の代表:北野政美さん
●北野さんの田んぼを活用して生きもの観察会などを開催しているNPO法人里山の風景をつくる会の代表:近藤こよ美さん
1.収穫を迎えようとしている黄金色の田んぼに麦わら帽子の人達。これは会のメンバーでお米の生育状況の調査をしているところです。
2.5月の終わりの頃、田植えされてまだ1ヶ月もたっていない田んぼ。生きもの観察会をしている風景。山の名前は前山。右手に勝浦川の土手があり、勝浦川から水を引き入れてお米をつくっている。タケノコ山やミカン山があって、屋敷林があって、田んぼがある。
3.勝浦川の田浦堰の写真。この堰から勝浦川の水を引き入れてお米をつくっている。
4.特別栽培米の栽培圃場カードの写真。上王子特質米組合は平成元年に設立。まだお米の統制が厳しかった時代ではあったが、減農薬のお米をつくって、少しでも高く売ることで、お米の生産者を持続可能なものしようとこころみた。
5.水車の架け替え作業の写真。地域の人で協力して、水車をつくって、水路に掛ける。田んぼと用水路との間に高低差があるので、昔から水車が活躍していた。水車は、かつて63台あったが、今は5台になっている。電気や石油ではなく天然自然のエネルギーで水をくみ上げる。"
6.ホタルの保全活動をしている。写真は源氏ホタルと平家ホタルがいっしょに発生した5月の末のもの。両者には1ヶ月ほどの発生の開きがあるのだだが、この年は両方が飛んだので、珍しいと思い捕まえて写真を撮った。
7.写真は水車の架け替えのときに、用水路の水を止めるので、近所の子どもに呼びかけて、魚とりをしているところ。30人くらいの参加があった。手長エビやヤンマのヤゴなども見つかった。今年は50㎝ほどのナマズが6匹ほどとれた。
8.写真は温湯殺菌処理器。これを導入して、種子消毒をやめて、完全無農薬になった。
9.お米はコープ自然派で「ツルをよぶお米」として販売されている。小松島市からは「いのち育むたんぼ米」として販売されている。
10.「田んぼの生きもの探検隊」というイベントを毎年やさせてもらっている。赤腹イモリがたくさんいる。今年は100人が参加して100匹は捕まえた。子ども達には捕まえた生きものの絵を描いてもらっている。子どものための自然を楽しむイベントではなく、一緒に来ていただいた保護者の方々に、少しでもお米について知ってもらう場として重要だと思っている。
11.徳島県からの依頼で、新嘗祭に献上した。写真は上王子神社の氏子さんたちが、白無垢の作業着で稲を刈り獲る神事をしているところ。
12.冬水田んぼの取り組み。コープ自然派さんで冬水田んぼを設置するためのカンパ金を募ってもらっている。それを資金に、冬水田んぼを続けている。生きものを育む農法を広めるため、冬水田んぼは不可欠。
13.最後の写真は2015年8月に、田浦のすぐ近くの勝浦川にやって来たコウノトリ。
藤永:まずはじめに、鳴門市にはコウノトリ保護のための協議会ができていますが、どのような取り組みをしているのかを紹介してもらいたい。
三宅:官民学と市民団体によって組織されている。
その中で3つの班を立ち上げている。
①マナー班は、コウノトリを怯えさせないように、見学に来る人に注意喚起をするための看板の設置などをやっている。
②エサづくり班は、休耕田を活用した餌場づくりを行っている。
③ブランド班は、持続可能な取り組みにするために、コウノトリが生息しているハス田のレンコンなどの農産物の売り方・PRを研究している。コウノトリブランドができるかどうかを検討中。
コウノトリを放鳥している豊岡と野田では、コウノトリに150m以上近づかないことを条例で定めている。徳島でもこれに準じたらどうかというところで話が進んでいる。
藤永:コウノトリやナベヅルにとっての徳島の魅力って何なのでしょう?
金井:これだけハス田が広いところは全国的に珍しい。良質な水辺は生物が多様で、エサとなるものがたくさん手に入りやすい。
藤永:コウノトリやナベヅル保護のための徳島の課題は何でしょうか?
三宅:一番はエサの問題。ナベヅルにとってのエサは十分に足りていない。
エサが不十分だった場合、それを覚えていて次の年には来なくなってしまう。
いったいナベヅルは、徳島のエサの状況をどのように感じているのか?そこが問題。"
藤永:ナベヅルのエサは二番穂と教わりましたが、二番穂の状況は一体どうなっているのでしょうか?
瀧口:有機栽培でやる場合、窒素が土壌に残らないので、二番穂は出にくい。肥料をたくさんやれば二番穂が出るかもしれないが、それでは食味が落ちてしまう。
小山:窒素が残っているとお米はまずくなるといわれるが、現実には二番穂は出る。
三宅:鳥のために柿の実を全部取らないで、3つくらい残すというようなことをお米でもしてもらえないか?エサが続くかどうかが、ナベヅルの越冬が続くかどうかの条件となっている。
呉地:東北では寒いので、かつてはヒコバエは生えなかった、ところが温暖化で、近年は生えるようになってきた。稲はもともと多年草。条件ができればヒコバエは生えるものと考える。
金井:二番穂は早場米地帯の話。東北など奥手はお米の収穫が遅いので、収穫時の落ち穂がエサとなる。落ち穂は1回くらい耕起したくらいではなくならない。ツルの方にも、食べ方を学習してもらわなくてはいけないし、経験を積ませる必要もある。
会場から:コンバインで収穫したときに生じる切りワラは、台風や秋雨の集中豪雨で流れ出してしまうと、用水路や水門、ポンプ場を詰まらさせてしまうので、行政や農協では、収穫後は、できるだけ早くすきこむようにと指導している。
北野:秋ワラ処理はお米作りに重要な工程。
冬水田んぼにする圃場も、先ずはワラを腐食分解させた後に、10月下旬から11月はじめに湛水を始める。湛水期間は3か月。
瀧口:ワラを残すとガスが湧いて、稲の根を傷めてしまい、収量や品質を損なうことになる。
ワラの腐食分解には気を使う。
会場から:コンバインで収穫するときも、トラクターでワラをすきこむときも、サギなどがたくさん集まってきて、何かを食べている。すきこむことも生物多様性の点では有効なのではないか?
会場から:休耕田の活用を考えることも大事ではないか?
藤永:冬水田んぼのカンパ金を集めていると報告があった。どのような仕組みなのか?
近藤:生協の方に説明してもらった方がよいと思う。
岸:コープ自然派の岸です。2010年から始めています。冬水田んぼをやろうとしたが、冬に水が止められているところがほとんどなので、冬水田んぼをやるには、井戸水をくみ上げるなどしなくてはならなかった。費用もかかるので、お米を食べている方に環境へ直接支払いをやるから、100円カンパをしてほしいと募った。初年度は50万円ほど集まり18haの冬水田んぼができた。ナベヅルやコウノトリが来て、つまり実績が上がって、それからはもっと集まるようになって、現在は年間500万円くらいになっている。活用方法については、今後、話し合いたい。
近藤:生協の中でもナベヅルのことや冬水田んぼや環境支払いのことをきちんと知っている人は少ない。生協は「安全・安心な食べ物を求めて」それをつくる人とつながることで始まったのだけれども、食の安心安全の世界には限界があった。途中で勢いが止まってしまった。2010年のCOP10以降、考えが変わったように思う。自然の大きなつながりの中で私たちは食べている。そして生きているということを学んで、考えが変わった。人と人とのつながりが、もっともっと必要になってきていると感じる。
呉地:カルフォルニアやスペインの地中海側でお米をつくっているのだが、ここでは冬水田んぼが活用されている。株本を刈るのではなく、高刈りをして、その後、ライスローダーで倒すだけにして、すきこまない。それで水を張る。土中にすきこまれていないので嫌気発酵しないで、好機的に発酵するので、メタンなどのガスも出ない。技術はいろいろあるから、温暖な四国に適したものを探すのが良いのではないか?
金井:冬水田んぼはツルの餌場にはならないけれど、取り組みを始めるにあたって、冬水田んぼを進めた。ツルをブランド名にすると、ツルばかりが気になって、自然生態系をまるごと保全するということに目が向かなくなってしまうことがある。ベースとしての自然に立脚しないと人とツルの関係も深まらない。冬水田んぼから始めて頂いたことは良かったのではないかと思う。
金井:目標としてナベヅルの越冬地をつくるとするなら、民間稲作研究所が「冬草田んぼ」を提案している。春先から水を入れて草をすきこんで、雑草の抑草に活用するとういうもの。技術は多様だから、その土地、その土地の気候に合わせたやり方があるはず。いろいろやってみるうちに、意外とうまくいくものが見つかるかもしれない。
三宅:ナベヅルの越冬地は20羽くらいの群れで、分散化していってほしい。いくつも越冬地ができて欲しい。圃場整備していない小さな狭い田んぼにナベヅルはよく降りている。
そういう田んぼを残していく、守っていくことも大事ではないかと思う。農業の多様性ということを思いました。
藤永:「生業〈なりわい)」あってこその保護保全であると思う・今日は、農業という仕事に「誇り」をもって取り組んでいる方々の話が聞けて良かったです。このフォ-ラムで終わりではなく、今後も(コウノトリ・ナベヅルのために)話し合いなど進めていく第一歩を今日、踏みだしたところだと思います。
高井:今日がきっかけとなって、生物多様性が広まり、農業へつながり、市民が関わり、行政が関わり、広がっていく布石となればと思います。